働く女性が増加するにつれて、育児と仕事を取り巻く環境は少しずつ変わりつつあります。
都市部では依然保育園不足が続く中、「子連れ出勤」という働き方が注目を浴びています。

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古くは1987年、歌手・タレントのアグネス・チャンが、子どもを連れてテレビ番組の収録スタジオに来たのを、批判されたことがありました。当時は男女雇用機会均等法が施行されてすぐということもあり、この問題はあらゆるメディアで論争が繰り広げられました。
それから30年あまりたった現在でも、「子連れで仕事に行く」ということに対する議論は深まっておらず、子連れ出勤が一般的な働き方として認められているとは言いがたい状況です。

そんな中、いくつかの企業では「子連れ出勤」という働き方を試行し始めています。授乳服の製造販売を行う「モーハウス」も、そんな会社の1つです。直営の東京・青山店では、スタッフが赤ちゃんをスリングであやしながら接客します。来店していた妊娠中の女性が赤ちゃんにはなしかけたり、初老の女性が赤ちゃんをのぞきこんだり。もし赤ちゃんがぐずってしまっても、スリングの中で授乳したりしながら、仕事を進めていると言います。
つくば市にある本社でも、ゆったりとした雰囲気は同様で、子供用のお昼寝スペースが確保されているほど。「つねに誰かしらが構ってくれるので人見知りせずに育ってくれています」と、実際に子連れで働く社員からも好評です。

しかし、子連れで働ける環境を作るための工夫はもちろん必要です。先ほどの青山店では、子連れスタッフと単身のスタッフをペアで配置し、子どもの世話で手が離せない時間を想定して、店舗に対して少し多めの人員を確保しているといいます。
また、子どもの急病などで突然休んでしまいがちな子連れ社員をフォローすべく、業務内容は常にチームで共有。一人で抱えている仕事がないよう、進捗を報告しあっているそうです。

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体験型のカタログギフトの企画・販売を手がける「ソウ・エクスペリエンス(Sow Experience)」も、「子連れ出勤」を認めている会社の1つ。そもそも、子連れ出勤を始めたのは、スタッフの1人が出産したことがきっかけだったといいます。
有能な社員に「ぜひ戻ってきてほしい、子どもを連れてきてもいいから」と頼み、2ヶ月の試行期間をもったのがスタートでした。「簡単だとは言いたくないですが、そんなに難しい話ではありません。会社と従業員と子どもたちの、ちょっとずつの努力と工夫によって成り立っていることです」と社長は語ります。

しかし、制度を利用する社員には、子連れ出勤ならではの後ろめたさがあるようで「私1人ならもっとパフォーマンスが上げられるのに」という葛藤が絶えなかったといいます。
そんな気持ちと折り合いをつけるために、同社では新しい賃金体系を導入。労働時間の2割を「子どもの世話にかけた時間」として差し引くことにしました。実はこの提案、「そのほうが気持ちよく働ける」と子連れ出勤者からの申し出だったそうです。

今までいなかった「子ども」を職場に受け入れるということ。そこにはもちろん、一筋縄ではいかない課題も持ち上がります。それでも、働き方や職場の多様性の一つとして「子連れ出勤」を認めても、得るものが多いとは言えないまでも、失うものもそれほど多くないということに、企業も気付き始めたのかもしれません。

<参考>
http://toyokeizai.net/articles/-/78873
http://toyokeizai.net/articles/-/68087
https://ja.wikipedia.org/wiki/アグネス論争