鹿児島県南九州市にあるベジタブル加工の専門店
有限会社エスランドル(以下:エスランドル)は、らっきょうやかぼちゃの生産をはじめ、加工品の生産・販売といった六次産業に取り組むベジタブル加工の専門店です。女性を中心に、18歳から40代までの9名が働いています。
主な事業内容は、
①農作物を使った小売向けの加工品の生産・販売
②自社の加工技術を活かした業務用原料の生産・販売
③農作物の受託製造(OEM) の3つです。
添加物を使わないエスランドルの商品は、首都圏を中心に百貨店や高級スーパーといった、体に優しいこだわりの商品を扱う店舗で販売されています。また国内だけでなく、アメリカやアジア諸国との取引実績も多数。
さらに乾燥や粉末といった高い加工技術を活かして、大手食品メーカーや飲料メーカー、有名菓子店などへ業務用の原料提供も行っています。
エスランドルは「食の可能性を探究し、お客様に感動を届けたい」という思いを胸に、食の大切さを伝え、日本の食文化を支えていけるような企業を目指しています。
空間プロデューサーから農業へ転身。きっかけは副業
「私は元々空間プロデューサーで、以前は建築や店舗設計をしていました。農業のきっかけは、副業です」と話すのは、代表取締役の上釜 勝(かみがま まさる)さん。
18年ほど前、右も左もわからない中始めた農業。軌道に乗ったきっかけは、特別な製法で育てた平均糖度15度の「極利(ごくり)かぼちゃ」でした。
地元スーパーや百貨店で試食販売を行ったところ、1日25万円を超える売上を達成。一玉3,000円と決して安くはない金額ですが、その自然なおいしさは口コミで広がり、少しずつファンが増えていきました。
「試食販売では目の前でかぼちゃを切って、レンジでチン。味付けなしで提供。それでメロン並みの甘さなので、お客さんは衝撃だったと思います」
県内での知名度が高まり、次は県外にも販路を広げようと、首都圏への営業の旅が始まります。
「当時は全くの無知だったので、一発目に伊勢丹に行きました。今だったら絶対に行かないですね」と笑いながら話す上釜さん。
今ではとんでもないこと、と当時をふりかえりますが、極利かぼちゃのおいしさは伊勢丹でも認められ、全国の百貨店から声がかかるように。どんどん高まる知名度に喜ぶ反面、とある問題も抱えていました。
1,000玉以上のかぼちゃが廃棄処分となった悔しい記憶
物流センターを持っているスーパーや百貨店との取り引きの場合、大量注文を受けたらそのまま発送することができます。
しかし、この時の百貨店との取り引きでは物流センターを使わない方法だったため、発送前の商品は自分たちで管理する必要がありました。
「昔、ゲリラ豪雨で湿気がすごい時があって、かぼちゃが何千玉ってダメになったんです。極利かぼちゃは糖度が高いので湿度に弱く、一般的なかぼちゃより傷むのが早くて……」
当時のエスランドルは加工技術を持っていなかったため、傷んでいくかぼちゃを見ていることしか出来なかった、と悔しそうに語る上釜さん。ダメになったかぼちゃは、全て廃棄処分となりました。
その経験から「同じ過ちは二度と繰り返さない」と、農業大学校や鹿児島県農業開発総合センターなどで食品加工の技術や知識を習得。
ここから農作物の可能性を探究するエスランドルの新たな旅が始まりました。
高い食品乾燥技術を確立するも、売上につながらない日々
上釜さんが加工に力を入れ始めた時期は、ペーストやピューレが主流。しかし、義理の父の「これからは乾燥の時代」というアドバイスから、乾燥技術を高める方向に舵を切ることに。
「休む暇もないくらい研究に打ち込んだ結果、独自の技術を確立することができましたが、売上にはつながらなかったですね」
現在は大手食品メーカーや多くの農家から食品加工の依頼を受けるエスランドルですが、当時は価格や用途面で受け入れられず苦い思いをしました。
「どこに行っても門前払いでしたね。私たちの乾燥原料は使わないけど、海外産のものは使っていたりして、結局は安さかよって。あまりにも評価されないので『日本の食ってなんなんだろう。香料と甘味料を使えば良いの?』ってそんな考えにまで陥りましたね」
そうした経験から、乾燥技術を活かした原料の販売は一旦見送り、自社で小売用の商品を開発することに。
そうして生まれたのが、「生姜のスナック ジンパリ」です。
その後も、従業員発案の「おかずらっきょう」などで販路を広げ、現在は10種類以上のオリジナル商品を販売。
添加物を使わず、食品そのものの良さを引き立てるエスランドルの技術は、昨今の健康志向ブームが追い風となり、多くの人々が求めるものになっていきました。
大変な状況を乗り越えてきたからこその感謝の思い
終始、和やかに話す上釜さんですが、過去には自分を責めたことも。
妻であり専務取締役の文子(ふみこ)さんと極利かぼちゃの営業のために、首都圏を回っていた頃、商談が長引いて帰りの飛行機に間に合わなかったことがありました。
その日は、2.5kg のかぼちゃが10玉入った袋を一日中担いだ日。
「鹿児島に帰るために、途中の大阪まで新幹線で行くことにしたんです。お金がなくて自由席しか取れなくて……ようやく座れて窓側で『はー』と息を吐く疲れ切った専務の顔を見た時は、『この事業をやって本当に良かったのか?』と思いました」
大変な状況をひとつひとつ乗り越え、様々な人との出会いを通じて事業を拡大してきたエスランドル。
周囲への感謝を忘れずにいるために、上釜さんと文子さんは「売上が上がっても謙虚でいようね」と約束しているそうです。
そんな姿勢は従業員にも向けられていて、上釜さんは「エスランドルで働いてくれる人を絶対に大切にします。後悔しない人生を送ってもらえる自信があります」と語ります。
その言葉を体現するように「採用は自分たちの目が届く範囲まで」と、最大20名と決めています。
食の世界から日本を助けられるような会社を育てたい
高い食品加工技術を活かして、大手食品メーカーや農家を支えてきたエスランドル。縁の下の力持ちといえば聞こえはいいですが、今後はもっとエスランドルという名前が表に出るような事業を展開していきたい、と考えています。
「高い評価をいただいているベジタブル加工を軸に、食の世界から日本を助けられるような会社に育てていきたいです。
スタッフのみんなには、今まで積み重ねてきた作る喜びにプラスして、販売する喜びも味わってほしい」と楽しそうに話す上釜さん。
・農業に興味がある。食品加工に興味がある
・食品加工の技術を学んで、新しい商品を作ってみたい
・「食」というアプローチで地域や日本に貢献したい
ひとつでも当てはまった方は、エンスランドルのホームページをご覧ください。
好奇心旺盛で興味のある分野に対して真っ直ぐに向き合える人にとっては、望んでいた環境が待っているかもしれません。